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仙台地方裁判所 昭和60年(わ)645号 判決 1985年11月28日

本籍

仙台市北根二丁目一番地の四二

住居

同市台原一丁目四番一三号

洋品販売業

田中昭夫

昭和一八年一一月一七日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官総山哲及び弁護人柴田正治出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金七五〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、宮城県泉市山の寺一丁目一〇番一五号に事業所を置き、「ポピー手芸店」の名称でたばこ・洋品小売業を営むほか、同県宮城郡利府町神谷沢字化粧坂一〇番地の二三ほか一か所に事業所を置き、「リッチ」等の名称でケーム機等を設置した遊技場を経営し、事業主としてその業務全般を統括していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、遊技場経営による収入の原始記録を破棄し、仮名の定期預金等を設定するなどの方法により所得を隠匿したうえ

第一  昭和五六年分の実際総所得金額が一七六三万六八二五円で、これに対する所得税額が四八一万四〇〇〇円であるにもかかわらず、同五七年三月六日、仙台市上杉一丁目一番一号所在の所轄仙台北税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が三八二万六八七七円で、これに対する所得税額が一八万九二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出して納期限を経過し、もって不正の行為により同五六年分の正規の所得税額との差額四六二万四八〇〇円を免れ

第二  昭和五七年分の実際総所得金額が五一七五万六二〇五円、分離課税による長期譲渡所得金額が九九万二三〇〇円で、これらに対する所得税額が合計二五三一万六七〇〇円であるにもかかわらず、同五八年三月一四日、前記仙台北税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が五九七万六七九七円、分離課税の長期譲渡所得金額が二七九万六二〇〇円であり、これらに対する所得税額が合計一二三万八四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出して納期限を経過し、もって不正の行為により同五七年分の正規の所得税額と右申告税額との差額二四〇七万八三〇〇円を免れ

たものである。

(右各年分の所得金額の内容は、別紙1、2の各修正貸借対照表に、税額計算は、同3の脱税額計算書にそれぞれ記載したとおりである。)

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書及び大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  検察官池上政幸ほか二名作成の合意書面

一  田中ふく子、森房子、大畑兵馬及び半田のり子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  国税査察官作成の各写真撮影報告書

一  大蔵事務官作成の預貯金等調査書、現金調査書、銀行調査書、ゲーム機等調査書、売掛金(洋品)調査書、売上金調査書、たな卸商品調査書、貸付金等調査書、保証金等調査書、売上(ゲーム機関係)調査書、車両等調査書、建物等調査書(昭和六〇年一一月二五日付)、土地等調査書、事業主貸勘定調査書、支払手形調査書、買掛金調査書、仕入等(洋品)調査書、未払金調査書、借入金調査書、事業主借勘定調査書、事業専従者調査書、元入金調査書、不動産所得調査書、利子所得調査書、雑所得調査書、譲渡所得調査書及び譲渡所得(分離長期)調査書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五六年分)、昭和五六年分所得税の更正通知書(謄本)及び五六年分の所得税の修正申告書(謄本)

一  押収してある五六年分の所得税の確定申告書一枚(昭和六〇年押第一一五号の三の一)及び右申告書添付の計算書一枚(同号の三の二)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和五七年分)、昭和五七年分所得税の更正通知書(謄本)及び五七年分の所得税の修正申告書(謄本)

一  押収してある所得税の確定申告書一枚(前同押号の四の一)及び右申告書添付の計算書一枚(同号の四の二)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、所得税法二三八条一項(昭和五六年法律第五四号による改正後のもの)に該当するところ、判示各罪のいずれについても懲役刑及び罰金刑を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、各罰金刑については同法四八条二項により各罪について定めた罰金額を合算し、その刑期及び罰金額の範囲内で被告人を懲役一〇月及び罰金七五〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、右懲役刑については、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、事業主としてゲーム場等を経営していた被告人が、将来の事業資金を蓄積せんとして、昭和五六年及び同五七年の二期に合計二八七〇万三一〇〇円の所得税を脱税したという事案である。その手段は、ゲーム場経営収入については集計日報等の原始記録を破棄し、売上帳簿を隠匿するなどしてその一部のみを不動産所得として計上し、たばこ小売業については収支に関する記帳を全く行わず、その収入の全部を除外し、洋品小売業による収入についてはその一部を計上し、以上の除外分については簿外預金を設定する等した上虚偽過少のつまみ申告をなしたもので、巧妙かつ計画的であったこと、その脱漏所得分は仮名定期預金等のまま蓄え、あるいは土地、ゲーム機の購入資金にあてるなどしていたという利己的、利欲的なものであること、脱税額が前記のとおり高額に及び、正規の所得に対する脱税率も右各年分いずれも九五パーセントを超えており、納税義務違反の程度も大きいものと認められること等に照らすと、被告人の刑事責任は軽視することを許されない。

しかしながら、被告人は、本件所得税法違反の査察調査後とはいえ、自己の非を認め、昭和五六年及び同五七年の各年分の正規の所得税並びにこれらに伴う重加算税(昭和五六年分一四三万四〇〇〇円、同五七年分七二六万円)及び延滞税(昭和五六年分九五万一二〇〇円、同五七年分三〇四万九二〇〇円)をすべて完納し、また未納分の事業税、県市民税(税理士の計算によれば合計約一〇〇〇万円)も完納する旨当公判廷において述べていること、今後は経理を税理士に委任して、納税義務を誠実に履行する旨誓うなど改後の情も顕著であることなど被告人に有利な事情も存するので、これらを斟酌し、その他本件にあらわれた一切の事情も総合考慮して、主文のとおりの刑に処したうえ、今回に限り懲役刑の執行を猶予することとした次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小島建彦 裁判官 片山俊雄 裁判官 山田和則)

別紙1

修正貸借対照表

(事業所得)

昭和56年12月31日現在

<省略>

修正貸借対照表

(その他の所得)

昭和56年12月31日現在

<省略>

修正貸借対照表

(総所得)

昭和56年12月31日現在

<省略>

別紙2

修正貸借対照表

(事業所得)

昭和57年12月31日現在

<省略>

修正貸借対照表

(その他の所得)

昭和57年12月31日現在

<省略>

修正貸借対照表

(総所得)

昭和57年12月31日現在

<省略>

修正貸借対照表

(分離長期譲渡)

昭和57年12月31日現在

<省略>

別紙3

脱税額計算書

△は減算分

<省略>

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